いびき対策 ― 「うるさい音」の奥に潜む、睡眠時無呼吸症候群という病気

「最近いびきがひどいと言われた」「朝起きても疲れが抜けない」「昼間に強い眠気がある」――。
そんな経験はありませんか?
多くの人が“いびき”を軽く考えがちですが、実はその音の裏側で、命に関わる病気が進行していることがあります。

それが睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)です。
日本でも今や中高年男性だけでなく、女性や若年層、さらにはスポーツ選手にも発症例が増えています。
いびき対策を考えることは、睡眠の質を守り、健康を維持する第一歩です。

いびきは「空気の通り道」が狭くなっているサイン

いびきとは、睡眠中に上気道(鼻や喉の奥)が狭くなり、空気が通るときに粘膜が振動して発生する音です。
この「音」は、単なる生活音ではなく、「呼吸がスムーズにできていない」という身体の警告信号です。

気道が狭くなる要因はさまざまです。

  • 扁桃肥大や舌の落ち込み
  • 鼻炎や鼻中隔弯曲などの鼻疾患
  • 肥満による首周りの脂肪沈着
  • 飲酒・睡眠薬の使用
  • 仰向け寝
  • 睡眠不足やストレス

これらが重なると、気道が完全に塞がり、呼吸が止まる「無呼吸」に発展します。
それが「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?

SASは、睡眠中に10秒以上呼吸が止まる状態(無呼吸)が、1時間あたり5回以上発生する病気です。その間、体内の酸素が減少し、脳や心臓が「息をしろ」と警告を出すため、何度も目が覚めてしまいます。

本人に自覚がなくても、深い眠り(ノンレム睡眠)が妨げられ、結果として「熟睡感がない」「集中できない」「朝からだるい」などの症状が現れます。

日本では、成人男性の約3〜7%、女性の約2〜5%がSASを発症しているといわれています。肥満だけが原因ではなく、閉経前後の女性や、20〜30代の非肥満者でも発症するケースが増えています。

「男性だけの病気」ではない ― 女性や若者にも広がるSAS

SASというと「いびきをかく中年男性の病気」というイメージを持たれがちですが、近年は女性や若年層の発症が増加しています。

女性の場合

ホルモンの変化が関係しています。
閉経前は女性ホルモン(エストロゲン)が呼吸筋の働きを助けているため、SASの発症率は男性より低い傾向にあります。
しかし、閉経後にはホルモンバランスが変化し、筋肉の緊張が低下することで気道が狭まりやすくなります。
さらに、女性では「いびきが小さい」「眠気よりも頭痛や気分不調が目立つ」など、典型的でない症状が多いため、見逃されやすいという問題もあります。

若年層や非肥満者の場合

「太っていないから大丈夫」と考えるのも誤解です。
実際、やせ型でも以下のような理由で発症することがあります。

  • 顎が小さい、後退している(下顎後退)
  • 舌が大きく、喉の奥をふさぎやすい
  • 扁桃肥大や鼻の構造的な問題
  • 慢性アレルギー性鼻炎による口呼吸

つまり、体型に関係なく、骨格や呼吸経路の形状が影響するのです。
また、スポーツ選手の中にもSASの患者は多く、アメリカではアメフト選手の3人に1人が無呼吸の兆候を持つと報告されています。
体格が大きいほど気道周囲に筋肉や脂肪が集まりやすく、睡眠中の無呼吸につながると考えられています。

放置するとどうなる? ― 生活と健康への深刻な影響

睡眠時無呼吸症候群を放置すると、心身への影響は計り知れません。
体が慢性的な酸素不足に陥り、自律神経のバランスが崩れ、高血圧、狭心症・心筋梗塞、脳卒中、不整脈、糖尿病などの病気や、居眠り運転など交通事故のようなリスクを引き起こすリスクが高まります。

とりわけ問題となるのは、本人が自覚しないまま生活に支障をきたすことです。
「朝から頭が重い」「集中できない」「気分が落ち込みやすい」などの症状を“疲れ”と勘違いし、実は無呼吸による睡眠障害だったというケースが少なくありません。

自分でできる、いびき対策 ― 軽症SASを防ぐために

生活習慣の改善は、いびきや軽症SASの対策に非常に有効です。
以下は、医療機関でも推奨されている実践的な方法です。

  1. 寝る姿勢を変える(横向き寝)

仰向け寝では舌が喉に落ち込みやすく、気道をふさぎます。
抱き枕や横向きサポートクッションを活用しましょう。最近は高機能な枕もいろいろと販売されていますので、それらを試すのも良いかもしれません。

  1. 飲酒を控える

寝酒は筋肉を緩め、無呼吸を悪化させます。寝る2〜3時間前からアルコールを控えるのが理想です。

  1. 体重を適正に保つ

特に首まわりの脂肪を減らすことで気道の閉塞が緩和します。
肥満がなくても「顔や首のむくみ」を取るだけで変化が見られる場合もあります。

  1. 鼻呼吸を意識する

鼻づまりがあると口呼吸になり、いびきが悪化します。
アレルギー性鼻炎などは医師に相談し、根本治療を目指しましょう。

  1. 睡眠リズムを整える

睡眠不足は筋肉のコントロールを弱め、いびきを誘発します。
決まった時間に寝起きし、規則的な生活を心がけましょう。

以上が一般的ないびき対策となります。しかし正直なところ、「そんなことはもう分かっている」「ダイエットは、できるならとっくにやっている」という方も少なくないと思います。

やはりなかなか改善が難しい場合は、いびきの背後に潜むリスク――すなわち睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性を疑い、次のような検査を受けてみることをお勧めします。

改善しない場合は「睡眠検査」を

いびき対策をしても改善が見られない場合は、医療機関での検査が必要です。

睡眠検査の方法

まずは、自己診断用の「ESS問診票」を使って簡単にチェックしてみましょう。
こちらに ESS問診票をご用意しています。正式な問診票ですが、質問は全8項目と少なく、すぐに行うことができます。ぜひ一度お試しください。

その上で、以下の検査に進むのが一般的な流れとなります。

1.簡易睡眠検査(在宅)

鼻や指にセンサーを装着し、呼吸や酸素濃度を測定。
自宅で手軽にできる一次スクリーニングです。

2.終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)

脳波・心電図・呼吸・酸素などを総合的に評価する精密検査。
SASの重症度を正確に把握できます。

主な治療法 ― SASを根本から改善するために

症状の重さや原因によって、治療法が異なります。

CPAP(シーパップ)療法

鼻マスクから一定の圧力で空気を送り、気道の閉塞を防ぎます。
最も効果的で、SAS治療の第一選択とされています。
使用を続けることで、血圧や眠気、集中力が大きく改善します。

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マウスピース療法

下顎を前方に出して気道を広げる専用装置。
軽症〜中等症に有効で、寝返りの少ない方にも適しています。

外科的治療

扁桃肥大、鼻中隔弯曲、軟口蓋の過長など、構造的な問題を除去する手術。
根治を目指すケースで選択されます。

生活習慣の維持

治療を行っても、生活習慣を戻すと再発する可能性があります。
減量・禁酒・睡眠リズムの管理を継続しましょう。

いびきを「家族の問題」として捉える

いびきや無呼吸は、本人だけでなく家族の睡眠や生活にも影響を及ぼします。
家族が眠れなくなったり、夜中に息が止まる様子を見て不安になることもあります。
治療を始めた方の多くが、「家族が安心して眠れるようになった」と語ります。

また、運転や機械操作を伴う仕事をしている方は、治療によって安全性と集中力が向上することも証明されています。

患者の会からのメッセージ

私たち「睡眠時無呼吸症候群に打ち克つための患者の会」では、同じ悩みを抱える方々が安心して相談できる場所を提供しています。

「自分はいびきをかいているが、病院に行くべきかわからない」
「CPAPを始めたけれど、続けられるか不安」
「家族のいびきや息止まりが心配」

そんな声に寄り添い、情報を共有し、支え合うネットワークを築いています。
SASは正しい知識と治療によって、誰でも改善できる病気です。

いびき対策は、静かな夜を取り戻すことではなく、健康な人生を取り戻すこと
気になる方は、まず手始めに、ESS問診票の簡易チェックから始めてみてください。
眠りの質を変えることが、人生の質を変える第一歩です。

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