睡眠時無呼吸症候群に「飲み薬」は実現する?その“期待と注意点”

近年、睡眠時無呼吸症候群(SAS/閉塞性睡眠時無呼吸:OSA)をめぐって「マスク不要の治療が出るのでは」というニュースが増えています。

なかでも、米バイオテック企業Apnimed(アプニメッド)が開発する“史上初の飲み薬”が最終段階の臨床試験で良好な結果を示し、米食品医薬品局(FDA)への承認申請に向けて動いている、という報道は注目を集めました。私たち患者の会は、新しい治療の可能性を歓迎しつつも、「誰に」「どのくらい」「どんな条件で」使えるのか、
そして従来治療(CPAPなど)との関係はどうなるのか──を冷静に見極める必要があると考えています。
ここでは報道で触れられたポイントを引用しながら、患者の会として、科学的に分かっている範囲と、現時点での注意点を整理したいと思います。

1. そもそもSAS/OSAは「眠気」だけの病気ではない

OSAは睡眠中に上気道が狭くなったり塞がったりして、呼吸が止まる(または浅くなる)状態を繰り返す疾患です。
典型的には「大きないびき」「日中の強い眠気」「起床時の頭痛」「熟睡感の欠如」などが起こり得ます。
そして重要なのは、症状のつらさに加え、長期的な健康リスクとも関連しうる点です。

報道でも、日中の強烈な眠気だけでなく心血管系のリスクに触れつつ、治療の必要性が述べられています。
ただし、個々のリスクや重症度は一律ではありません。自己判断で放置せず、まずは検査・診断につなげることが大切です。

2. 標準治療CPAPの効果と、続けにくさ(アドヒアランス)の壁

OSAの標準治療として広く知られるのがCPAP(持続陽圧呼吸療法)です。
就寝中にマスクを装着し、一定の空気圧で気道の閉塞を防ぐ仕組みで、多くの患者さんに有効性が期待できます。

一方で、CPAPは「続けられるかどうか」が治療成果を左右しやすい側面があります。
報道でも、マスク装着の不快感や煩わしさによって治療を断念する人が少なくない、といった趣旨が語られています。
実際、私たち患者の会にも「鼻が痛い」「口が乾く」「旅行や出張が負担」「同居家族に気を遣う」など、さまざまな声が寄せられます。

こうした背景から、「マスク不要の新しい選択肢」への期待が高まるのは自然な流れです。
ただし、新薬が出たとしても、CPAPが不要になる人・引き続きCPAPが第一選択となる人は混在する可能性があります。
新旧治療の“置き換え”ではなく、“適材適所の選択肢が増える”と捉えるのが現実的です。

3. 「飲み薬」AD109とは何か

今回話題になっているのは、Apnimedが開発中の経口治療薬「AD109」です。
報道では、最終段階(第3相)臨床試験で良好な結果が示され、FDA承認申請に向けて動き出した、とされています。

Apnimedの発表資料によれば、AD109は「就寝時に1日1回」服用する設計で、OSAに対する“初の経口薬”となる可能性があると説明されています。
さらに同社は、第3相試験で主要評価項目を達成し、AHI(無呼吸低呼吸指数)の改善を示したと公表しています

※用語メモ:AHIは「1時間あたり、無呼吸・低呼吸が何回起こるか」を示す代表的な指標です。
AHIが高いほど重症度が高い傾向があり、治療効果の評価に用いられます。

4. どれくらい効いたのか:公表されている第3相試験の概略

外部機関による解説として、米国睡眠医学会(AASM)関連の情報では、AD109を投与された参加者でAHIが平均的に大きく低下し、プラセボとの差が示された、といった要旨が紹介されています。
また、Apnimed自身も第3相試験で主要評価項目を達成したことを繰り返し発表しています。

さらに、同社は学会(CHEST 2025)で追加データを提示し、酸素化指標(低酸素負荷や酸素飽和度低下指標など)の改善や、重症度カテゴリーが改善した参加者の割合といった項目も示したとしています。

ただし、臨床試験の結果は「平均値」だけでなく、対象者の特性(年齢、肥満度、併存症、重症度、睡眠の質、眠気の程度など)によって見え方が変わります。
“自分に当てはまるか”を判断するには、今後の論文詳細、サブグループ解析、長期安全性データなどの積み上げが欠かせません。

5. いつ使えるのか:FDA申請と上市時期の見通し

報道では、ApnimedがFDA承認申請に向けて動き出し、早ければ2027年にも市場投入の可能性がある、と伝えられています。

一方、科学誌のニュース解説では「早期(early 2026)にFDA承認申請を目指す」趣旨が述べられています。
医療ニュース媒体でも、同様にFDAへの申請計画が言及されています。

ここで大切なのは、「申請」=「承認」ではないことです。
申請後も審査があり、追加データ提出や安全性評価、製造体制など多面的な確認が行われます。
よって、時期については今後の公式発表を注視する必要があります。

また、米国での承認・普及と、日本での承認・保険適用のタイムラインは一致しません。
日本での利用可能性は、国内治験、承認申請、薬価・保険制度、診療ガイドラインなど複数の要因で変動します。

6. 「飲み薬」が出ても、CPAPが不要になるとは限らない理由

メディアでは「CPAPの代わりに錠剤で」という表現が目立ちやすいのですが、現実はもう少し複雑です。
OSAは原因や病態が一様ではなく、たとえば以下のように治療戦略が分かれます。

  • 重症度(AHIが高いほど合併症リスクも考慮されやすい)
  • 解剖学的要因(顎の形状、扁桃肥大、鼻閉など)
  • 機能的要因(上気道筋の反応性、睡眠の深さ、覚醒しやすさ)
  • 併存症(高血圧、心疾患、糖代謝、精神・神経症状など)
  • 生活背景(勤務形態、運転、介護、家庭環境)

経口薬が有効でも、効果が十分でない人、別の治療と組み合わせる人、引き続きCPAPが最適な人は一定数いると考えられます。
逆に、CPAPがどうしても続かない人にとっては、医師の管理下で新しい選択肢が増えること自体が大きな意味を持ちます。

7. 患者の会としての見解:期待を“現実的な希望”に変えるために

私たちは「新しい治療の登場=希望」だと考えています。ただし、その希望を現実の利益につなげるには、期待と同じだけ「正確な情報」と「安全な使い方」が必要です。

たとえば、Apnimedは第3相試験で重篤な有害事象が治験薬に関連して報告されなかった旨を発表していますが、長期使用での安全性、併用薬との相互作用、日中の眠気や生活の質への影響などは、論文化・市販後データ(承認後のリアルワールドデータ)を含めて総合評価されていきます。

またAASMの総括記事でも、OSAに対する経口治療を含む新規治療パイプラインが前進している流れが言及されています
これは喜ばしい一方で、治療選択肢が増えるほど「自分に合う治療を選ぶためのリテラシー」が重要になることも意味します。

8. いま私たち患者ができること:ニュースを“行動のきっかけ”にする

(1)「飲み薬待ち」になって検査・治療を遅らせない

もっとも避けたいのは、「どうせ近い将来、飲み薬が出るなら」と受診や検査を先送りし、症状やリスクが積み上がってしまうことです。
報道はあくまで“開発中の進捗”であり、現在の標準治療が不要になるという意味ではありません。

(2)CPAPがつらい人は「やめる前に」調整余地を確認する

CPAPは、マスク種類、加湿、圧設定、鼻治療、睡眠衛生などで継続性が改善することがあります。
自己中断はリスクになり得るため、つらさの原因を医療者と一緒に切り分けることが大切です。

(3)新薬情報は「一次情報」を優先して追う

SNSやまとめ記事では、効果が誇張されたり、時期が断定的に語られたりすることがあります。
可能なら、企業発表、学会、専門機関(AASMなど)、主要メディアの原典に当たる習慣をおすすめします。

9. よくある質問(FAQ)

Q1. 日本でもすぐに処方されますか?

現時点では「米国でのFDA申請・承認見通し」が報じられている段階です。
日本での承認・保険適用は別プロセスのため、時期は確定していません。

Q2. これが出たらCPAPはもう不要ですか?

不要になる人が“ゼロ”とは言えませんが、全員が置き換えられるとも限りません。
病態や重症度、合併症、生活背景で最適解は変わります。

Q3. 効果はどの指標で評価されていますか?

企業発表や専門機関の解説では、AHIの変化が主要な評価指標として示されています。
ただし、眠気や生活の質、長期の健康アウトカムへの影響も重要です。

Q4. 安全性は大丈夫?

企業発表では、第3相試験で治験薬に関連する重篤な有害事象が報告されなかった旨が示されています。
ただし、承認審査と市販後データで評価が更新される可能性があります。

10. 新しい選択肢の時代に向けて

「飲み薬で睡眠時無呼吸症候群を治療する」という構想は長年の悲願とされてきました。
その実現に近づく臨床試験結果が報じられ、FDA申請が視野に入ってきたのは確かに大きな進展です。

一方で、私たちが強調したいのは、新薬は“希望”であると同時に“情報の精度”が問われるテーマだという点です。
いま治療中の方は治療を自己判断で中断せず、未受診の方は検査を先延ばしにせず、それぞれの状況に合った医療につながることが、将来の選択肢を広げる最短ルートになります。

患者の会として、私たちは今後も、根拠に基づく情報(一次情報)を重視しながら、新しい治療の動向を分かりやすく整理し、患者さんの不安を減らす発信を続けていきます。

参考情報(一次情報・関連資料)

  • Forbes JAPAN:睡眠時無呼吸症候群の「飲み薬」開発報道(Apnimed、FDA申請・市場投入見通し)
  • Apnimed公式:AD109 第3相試験トップライン結果(SynAIRgy / LunAIRo)
  • AASM(米国睡眠医学会)関連:AD109試験結果の解説記事
  • Science:大型試験の結果とFDA申請時期に関する解説

私たち「睡眠時無呼吸症候群に打ち克つための患者の会」では、

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本記事は、医学的アドバイスや診断を目的とするものではなく、内容の正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。記事内容に基づく判断や行動について、当会では一切の責任を負いかねます。健康に関わる重要な判断は、必ず医療機関にご相談ください。